『狼たちの月』

狼たちの月

狼たちの月

 巡回先のブログで言及されていて面白そうなので読んでみた。『黄色い雨』も評判になっていて気になっているのだが、こちらが長編第一作だそうだ。時代はスペイン内戦前後、反フランコ派の残党のアンヘル、アミーロ、ヒルドらは、治安警備隊員に見つかったら即、殺されるという極限状態の下、夜陰に紛れて山から山、あるいは廃坑・・と10年も逃げ続ける。その上、冬になれば厳しい自然との闘いも余儀なくされる。仲間は一人、また一人と減っていき、最後には究極の孤独とも闘わなくてはならなくなったアンヘルの運命は・・。 
 スペイン内戦についてもほとんど知識がなかったので、wikipediaなどで調べたりしてみたんだけど、ヨーロッパの歴史って今ひとつよく分からない(涙)でも特にそれほど教科書的知識がなくても十分、味わえると思う。
 食料を確保するためや、逃げるための資金を得るために、殺人まで犯してしまう彼ら。この辺りは佐藤亜紀の『ミノタウロス』に似ている気がするが、『ミノタウロス』ほど筋書きがドラマティックなわけでもなく、登場人物の心情も、自然描写と合わせて淡々と綴られていく。夜の内蔵を破って、とか、自然を擬人化する表現が多く出てくる。それがいっそう、登場人物たちの孤独感を際立たせているように思えた。
 アンヘルの家族も迷惑を被って、連行されたり暴行を受けたりするのだが、それでも何かと手助けしてきた妹のフアナが、父の臨終の際に彼に言い放った言葉はとても辛かった。お願いだから、ここから出ていって!・・言う方も言われる方もこれほど辛い言葉はない。

「ほら、月が出ているだろう。あれは死者たちの太陽なんだよ」

 かつて父が語った言葉のように、夜の狼となって地を徘徊し、絶望だけを友として、ほとんど廃人のようになって、なお生への情熱を失わないアンヘルの姿は壮絶だった。生への執着の強さに感動した、などと安易に口に出来ないような悲壮さだった。
 これが処女長編って、すごい作家もいるものだな〜・・。