『終わりの街の終わり』

終わりの街の終わり

終わりの街の終わり

 面白かった。この小説に出てくるように、死者が、その人を記憶に留めておいてくれる人が生きている間だけ、たとえほんの一時的にせよ、住むことができる街なんてのが本当にあったらどんなにいいだろう、と思って胸が痛くなってしまったほど。・・この年になると、身近で亡くなる人が多くて、その日を境に、こっちの世界ではその人のいない日々が当たり前のように始まってしまうんだけれども、どこかこちらでは知りえない世界であっても、その人が普通に生活を営んでいられたりしたら、さぞかしいいだろうに、もし自分が明日死んだとして、本当にこの世に生きていた痕跡がまるで無くなってしまう前に、どこかでかりそめにでも、やり残したことを一時的にでも、やれる場所があったらどんなにいいだろうに、などと思ってしまうのだ。
 そんな街を舞台にした小説だ。核となるのはコカ・コーラの(って実名で訴訟とか起こされなかったんだろうか、と心配になった)企業戦略で、同僚のジョイス、パケットと共に南極大陸に派遣されているローラという女性。死者たちの街と、南極のローラの章が交互に語られていく。
 死者の街の中心人物は、ルカという新聞記者で、生きているときにローラと一時恋人どうしだった男。彼が死者の街で出会う女性がミニーで、彼女はローラの幼なじみだった。このように、二つの話は複雑に絡み合っている。ルカとミニーが出会うときに、ミニーが読んでいた本がブルガーコフの『巨匠とマルガリータ』(本文中では『悪魔とマルガリータ』となっているけどたぶん同じ本だろう)で、最近読んだばかりなのでちょっと嬉しかった。
 話としてはわりと分かりやすかった。最後はちょっとあっけなくて拍子抜けって感じだったのだけど、細かいエピソードで忘れ難い味わいのあるものが多かった。ルカが風船を放してしまった女の子に届けてあげる場面だとか、ローラのクレバスに落ちて死にかけた場面だとか、あと、パケットが幼くして死んでしまった兄の、死者の街での昔の住居を訪ねる場面だとか・・。一瞬にして命を奪われてしまった人の、その後あったかもしれない人生を、親とか兄弟とか、どうしてもあきらめ切れない人たちが、こんな風にその人が何年もその人らしく過ごしていたなんてことを聞いたりしたらさぞかし慰めになるだろうな、とか思ってしまった。あ〜、小説だからだけど、こんなことが本当にあったらいいだろうな・・。
 この作者は1972年生まれ。解説によると、アメリカでは30代の若い世代のSFとか他のジャンルとかを超えた新しい文学の流れが盛んになってきているらしい。楽しみだなぁ〜。