2010年に読んだなかで印象に残った本。

【海外】
1.『逆光』

逆光〈上〉 (トマス・ピンチョン全小説)

逆光〈上〉 (トマス・ピンチョン全小説)

逆光〈下〉 (トマス・ピンチョン全小説)

逆光〈下〉 (トマス・ピンチョン全小説)

 初めて最後まで読み切れたピンチョン作品。(『メイスン&ディクスン』は買ったけれど数ページで挫折し、『競売ナンバー〜』もちくま文庫で買ったけど読めてないし・・)思いの外読みやすく、SFで冒険小説で恋愛小説でエログロ要素若干あり、スパイやら謎の教団やら入り乱れ、とてつもなく面白かった。何回か読むごとに、きっと面白さが倍増してくるんだろうな。けど、その余裕はとてもない・・。雲の上の人だったピンチョンさん(通の人はPさん、と呼ぶ)が地上に降りて来てくれた感じ。『V.』とかは無理そうだなぁ・・。
2. 『オリーヴ・キタリッジの生活』
オリーヴ・キタリッジの生活

オリーヴ・キタリッジの生活

 こっちを1位にしてもいいかなと思えるくらい、好みだった。この本に出会えて今年は良かった。オリーヴは数学教師を退職した、田舎に生きる普通のひとで、彼女の中年〜老年期の折々を切り取った連作短篇という形を取る作品。我が強くて他人にも厳しく、決して誰からも愛されるような人柄ではない。けど、なぜか強く惹きつけられた。一人息子の妻になる女性の手袋(だったか靴下だったか)を片方こっそり隠したり、しょうもない事もするが、気持ちがよく分かるんだな・・。息子や夫がいても、いずれは死別したり親元を離れたりして、最後は一人になる。誰もが陥る境遇だ。幾ばくかの哀しみはあるが、それ以上に希望もある。普通のひとの人生も悪くない、と感じさせてくれた。・・今後年を取るにつれて読み返したくなる気がする。買わないと!今のうちに買っておかないと!文庫化とか絶対されないだろうし。
3.『時の地図』
時の地図 上 (ハヤカワ文庫 NV ハ 30-1)

時の地図 上 (ハヤカワ文庫 NV ハ 30-1)

時の地図 下 (ハヤカワ文庫 NV ハ 30-2)

時の地図 下 (ハヤカワ文庫 NV ハ 30-2)

 文句なく面白かった。
4.『オラクル・ナイト』
オラクル・ナイト

オラクル・ナイト

 オースターにハズレなしだなぁ。毎年新作が読めたらいいな。
5.『パストラリア』
パストラリア

パストラリア

 岸本佐知子さんの『変愛小説集2』に入っていた「シュワルツさんのために」がとても気に入って、同じ作者のこれも読んでみたのだけど、ものすごく好みだった。特にゾンビになったお婆ちゃんが大活躍する「シーオーク」がよかった。
6.『ウィルバーフォース氏のヴィンテージワイン』
ウィルバーフォース氏のヴィンテージ・ワイン (エクス・リブリス)

ウィルバーフォース氏のヴィンテージ・ワイン (エクス・リブリス)

 昨年もこの人の『イエメンで鮭釣りを』を入れたのだが、これも素晴らしかった。ワインに取り憑かれたウィルバーフォース氏がアル中で倒れるところから始まり、章ごとに時間を遡っていき、初めてワインに出会いその素晴らしさに目覚め、初々しい希望に包まれるところで物語は終わる。この構成の妙にやられた。彼がワインはさほど飲めないので・・とか言う場面では、読者はその数年後どうなるかを知っているので、やるせなく切なくなるのだが、同時にどうしようもなくおかしみを感じてしまう。哀しみと可笑しさの絶妙のバランス。
7.『サラの鍵』
サラの鍵 (新潮クレスト・ブックス)

サラの鍵 (新潮クレスト・ブックス)

 フランスでのナチスユダヤ人迫害、という全く知らなかった史実を教えてくれた。現代のジャーナリストの女性が、サラというユダヤ人の少女の消息を追って・・。クローゼットに残してきた幼い弟の存在感が、常に心の片隅を重苦しく占めながら読み進んでいった。サラのドラマティックな生涯と、現代の物語が交錯して・・・。今年の上半期に読んだので細かいところは既に忘れているのだが、エンディングがとても好きだったような記憶が(曖昧だなぁ)。私は小説は大抵、過程が良ければ結末はあまり気にしない方(というか忘れてしまう場合が多い 汗)なのだが。人生を左右するような重大な何かを共有してしまった人とは結ばれる運命、みたいな。(あー、記憶力欲しい)
8.『螺旋』
螺旋

螺旋

 物語の持つ力に引き込まれた。
9.『マーチ家の父 もうひとつの若草物語
マーチ家の父 もうひとつの若草物語

マーチ家の父 もうひとつの若草物語

 『古書の来歴』もよかったし、これもよかった。
10.『閉鎖病棟
閉鎖病棟

閉鎖病棟

 マグラアの作品はまだ3編ほどしか読めていない。が読むたびに引き込まれていく。マキューアンにも通じるところがあるようで、でも独特のおぞましくも美しい世界。
【日本】
 順位はつけず、印象的だったものを10冊挙げてみます。
人間小唄 (100周年書き下ろし)

人間小唄 (100周年書き下ろし)

つやのよる

つやのよる

悪貨 (100周年書き下ろし)

悪貨 (100周年書き下ろし)

尼僧とキューピッドの弓 (100周年書き下ろし)

尼僧とキューピッドの弓 (100周年書き下ろし)

原稿零枚日記

原稿零枚日記

悪と仮面のルール (100周年書き下ろし)

悪と仮面のルール (100周年書き下ろし)

ピストルズ

ピストルズ

破滅の箱 トクソウ事件ファイル(1) (講談社ノベルス)

破滅の箱 トクソウ事件ファイル(1) (講談社ノベルス)

再生の箱 トクソウ事件ファイル(2) (講談社ノベルス)

再生の箱 トクソウ事件ファイル(2) (講談社ノベルス)

アナーキー・イン・ザ・JP

アナーキー・イン・ザ・JP

 100周年書き下ろしが多い(偶然ですが)な。井上荒野さん、中村文則さん、小川洋子さん、マーチダ先生、は相変わらず外れなく面白い。あと、久しぶりに読んだ島田雅彦さんの『悪貨』もよかったし、阿部和重さんの『ピストルズ』も壮大なスケールで面白かった。
 適当な感想ですみません。
 今年も一年、ここを訪れてくださった方々、ありがとうございました。
 来年もよろしくお願いします。